昨年、ロシアがサマータイム制度を撤廃したが、その理由は移行期に心筋梗塞患者が増加するなどの健康障害が生じたためだ。また、移行期に生体リズムが急激に変化することで生じる体への影響は、子供や高齢者、患者などの健康弱者で特に大きいことがフランスの欧州連合(EU)上院議員団報告の中で示されている。
ロシアはサマータイムを撤廃した
こうした事実があるにもかかわらず、わが国にサマータイムを導入しようとする検討の中で、健康問題についてはほとんど議論されていないと日本睡眠学会は指摘する。
そのため、同学会はサマータイム導入に伴う健康問題を検討する委員会を設置。
「サマータイム制度と睡眠」の中間報告を2005年にまとめ、08年に最終報告を発表した。
同年6月には同学会として制度の導入に反対する声明文を出すなど、これまで健康障害に対する議論の必要性を社会に訴えてきた。
繰り上げ出勤で睡眠不足に
サマータイムとは、欧米で実施されている「daylight saving time」のことで、夏季に太陽が出ている時間帯を有効に利用することを目的に、ある地域(国)全体で一定期間時刻を一斉に変更する制度をいう。
したがって昨年、わが国の一部の企業が実施した、時刻はそのままで始業時刻を早めたものはサマータイム制度ではなく、「繰り上げ出勤」と呼ばれるものであるが、実際には混同されていた。
繰り上げ出勤の場合についても早寝が伴わなかったために、4人に1人が睡眠時間の短縮を実感していたことがインターネット調査で示されている。
日本睡眠学会の見解
日本睡眠学会は、わが国の夏は夜になっても気温が下がりにくく、サマータイムを導入するならば早寝をどう可能にさせるかが大きな課題と指摘している。
なお、厚生労働省の「人口動態推計2010」に上げられた日本人の死因10項目のうち、悪性新生物(がん)、心臓病、脳卒中、肺炎、不慮の事故(窒息、転倒、転落、水死など)、自殺の6つは睡眠不足との関連性が指摘されている。